1983年に、IMFの若いスタッフだった ミーズとロゴフ(Richard Meese and Kenneth Rogoff)が、ある論文(Empirical Exchange Rate Models of the 1970s: Do They Fit Out of Sample?, The Journal of International Economics, 1983, Volume 14)を書きました。それは、どのモデルが外国為替相場を最もよく予想するかを検証したものでした。彼らは、それをAmerican Economic Review誌に投稿しましたが、「ゴミ」として拒絶されたと言われています。
さて、彼らの論文の結論ですが、最もパフォーマンスのよかったモデルの前提とされていた考え方は、「今日のスポット相場が明日のスポット相場を最良に予想させる」(ランダムウォーク)というものでした。
これはいわゆる「テクニカル分析」(過去の移動平均値などからトレンドを導く方法)が有効であることを示す材料の一つでもあり、またFX(外国為替)相場には「バンドワゴン効果」が働いていることの一つの証拠でもあるように考えられます。ちなみに、バンドワゴンというのは先楽隊というような意味であり、そこからバンドワゴン効果というのは、「時流に乗る」とか「大勢に組する」というほどの意味です。政治の世界でも、例えばマスコミが首相候補者としてある人物の名前をあげると、人々がそれにのってくるというのと同じです。彼らの判断が正しい(合理的、根拠がある)かどうかにかかわりなく、一つの流れが生まれてしまうと、そのこと事態が結果的に正しいということになってしまいます。
ですから、American Economic Review誌の編集者が研究者生命を失わせるような「ゴミ」と言った気持ちが分からないではありません。
しかし、どうしてミーズとロゴフのいうように今日のスポット相場が明日のスポット相場を決めるのでしょうか、バンドワゴン効果が生じるのでしょうか。それを、きちんと理解するためには、もう一つFX相場のメカニズム(制度的側面)を知っておく必要があります。
一つの重要な点は、商品価格と資産価格・為替相場とでは、価格形成メカニズムが異なるという点です。まず前者ですが、商品は(近年の米国の石油などの例外を除いて)投機の対象とはならず、その価格は費用(プラス利潤)、つまりマークアップによって決まり、いくつかの価格変動しやすい商品(農作物など)を除くとあまり変動しません。商品は産業によって毎年生み出される商品です。
しかし、資産や外国為替は異なります。それは産業によって毎年生み出される商品ではなく、古典派経済学風に言えば、使用価値を持ちません。またその価格はそれを生み出す費用とはほとんど関係ありません。その価格は、費用以外の別の要因、特に(仮に供給を所与のものとすると)それらを購入するのに支出された貨幣量(需要)に依存します。簡単に言えば、買いたいと欲する人が多いほど、そのために支出される貨幣量が多いほど、資産・為替価格は上昇します。バンドワゴン効果が作用するのは、そのためです。
このことは、外国為替相場を考えるとき、貨幣フローがきわめて重要であること、したがってまた貨幣フローをもたらす要因として貿易の他に、外国直接投資、ポートフォリオ投資が重要であることを示唆しています。特に、繰り返しますが、BISの調査が明らかにしてきたように、外国為替取引が貿易取引とそれに関連する取引の40倍以上に達する現代では、そうです。
そこで、われわれの課題は、貿易以外の国際資本移動の為替相場に対する影響を分析し、またバンドワゴン効果のような心理学的な(あるいは場合によっては、非合理な)要因を検討することにあるということになります。
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