2013年2月4日月曜日

外国為替相場 その3 貿易取引と国際資本取引

 もし国際資本取引が存在しないか、それとも貿易取引に比べて非常に小規模にとどまっていれば、現実の外国為替相場は、購買力平価(PPP)に近いものになる可能性があります。その理由は、外国為替取引の動機が貿易を中心とする実需取引によってほとんど説明されるからです。また、その場合には最初に(その1)で述べたように、輸出と輸入を均衡させるような力が作用すると考えることができます。
 しかし、BISの調査(最新の調査は2010年4月)が定期的に明らかにしているように、実際には貿易取引の40倍以上の外国為替取引が行なわれています。このことは、貿易の何十倍もの(例えば)米ドル為替や円為替の売買が行なわれていることを意味しています。
 このような状態を考えたときに、貿易取引(輸出と輸入)は為替相場に影響するけれども、国際資本取引は為替相場に影響しないとアプリオリに(先験的に、apriori)に判断する根拠はあるでしょうか? もちろん、ありません。そこで、前回述べたように、この点を一切考慮しない新古典派の見解には、この点で大いに問題があることになります。
 問題の所在を明らかにするために、次のような簡単な例を考えます。いまA国とJ国の2つの国があり、それぞれの通貨をドルと円とします。またA国はJ国から1000ドルを輸入し、J国に800ドルを輸出しているとします。つまり2国間の貿易収支はA国が200ドルの赤字、j国が200ドルの黒字となります。次に資本移動(すべてポートフォリオ投資)がA国からJ国に49800ドル、J国からA国に50000ドルとします。つまり資本収支はA国が200ドルの黒字、J国が200ドルの赤字となっています。(以上の数字は、あくまでも説明のための便宜的なものですので、その真偽は問わないでください。)
 この場合、貿易収支と資本収支の各々に不均衡が生じていますが、ドル需要=ドル供給=50000ドル(および円需要=円供給)の等号は成立しています。この時の為替相場を仮に1ドル=100円としておきます。
 しかし、この1ドル=100円という相場は、貿易収支を均衡させる為替相場を基準としてみると円安・ドル高になっていると考えられます。というのは、J国の貿易収支は黒字ですから(同じことですが、A国の貿易収支は赤字ですから)、貿易収支を均衡させる為替相場はもっと円高・ドル安(例えば1ドル=80円など)と想定されるからです。
 この乖離はどうして生じたのでしょうか? この理由は、貿易収支や購買力平価(PPP)によっては決して説明できません。
 この乖離は、短期的なホワイト・ノイズや一時的なエラーと考えることも不可能ではないように思われるかもしれません。しかし、1980年代からずっと長期にわたってグローバル不均衡(米国の巨額の貿易収支赤字、資本収支の黒字)が続いてきたことを考えると、そうした想定は非現実的です。したがって、それは国際資本移動またはそれをもたらした要因の中に求めるしかありません。
 そこで、次に国際資本移動と為替相場がどのように関連しているか、(新古典派がかたくなに拒否してきた)そのメカニズムをどうしても検討しなければならなくなります。 

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