国際資本移動が貿易取引の40倍以上にも達しており、またグローバルな貿易不均衡が存在している現在、貿易収支の均衡をもたらすPPP(購買力平価)が外国為替相場を決定する要因であるという新古典派の見解が現実離れしていることを強調してきました。
しかし、新古典派には、利子率平価の理論、およびそれと近い関係にある「ドーンブッシュ・モデル」などがあることに言及しなければ、不公正となるでしょう。これらの理論、特にドーンブッシュ・モデルは、ともかく為替相場の決定要因を(利子率を介してであれ)国際資本移動に関係させ(かけ)たという点で、評価されるべきかもしれません。
しかし、あらかじめ指摘しておけば、これらの理論も、結局のところ、為替相場が完全雇用や貿易収支の均衡など、国内・国際的な実体経済の均衡を実現する点に落ち着くことを示そうという呪縛から抜けきれていません。
ドーンブッシュ・モデルは若干複雑なので、その説明は他日を期して、今日は「カバーされない利子率平価」(uncovered interest rate parity)の基本的な考え方を説明しておきます。
いま日本における「利子生み証券」の利子率をRj、アメリカにおける利子率をRaとします。また初期(投資時点)における為替相場(円/ドル)が(y/$)とします。すると1単位の証券投資の一定期間(例えば1年)後の元利合計は、(日本の居住者が)日本で投資した場合は(1+Rj)となり、アメリカに投資した場合は(1+Ra)($/y)となります。もしアメリカの金利が日本の金利より高ければ(つまり、Ra>Rjならば)、また(名目)為替相場が変わらないと仮定すれば、もちろん、アメリカの利子生み証券を購入する方が有利であることは言うまでもありません。
しかし、言うまでもなく、為替相場は変動します。もし一年後の期待為替相場が(y/$)e
(注意:記号のeは為替相場が期待される数値であることをいみします)であれば、アメリカで購入した利子生み証券(元利合計)を円に換算したときに期待される金額は、次のようになります。
Ea=(1+Ra)($/y)(y/$)e
はたして、この金額が日本の利子生み証券を購入したときに得られる金額Ej=(1+Rj)と比べて大きくなると言えるでしょうか?
本当のところは、何とも言えないというところかと思います。しかし、利子率平価の考え方では、基本的に両者が同じになるように為替相場が決定されるということになります。
ここでさしあたり問題が2つほど出てきます。第一は、どうしてそのような力が作用すると考えられるのか、であり、第二は、それは経験的なデータによって実証されるのか、です。
このうち、第一の点は、後日説明したいと思いますが、新古典派の説明では、結局、国際資本移動が中心的な役割を演じることはありません。役割を演じるのは、またしても合理的期待と実体経済の均衡(貿易均衡、完全雇用など)に関する限りでの利子率です。
第二の点についてですが、まず「期待される為替相場」に関するデータは存在しません。それは(多分)人々の頭の中にある(あった)はずですが、当然ながら統計資料として公表されることはありません。それでは、一定期間が経過したのちの事後的(ex-post)な事実に即して見ればどうでしょうか? 昨年、私の勤務する大学でも、卒論のテーマとして日米間の為替相場決要因を検証した学生がいましたが、結果はよくありませんでした。専門家の研究でもそのパフォーマンスはよくありません。
それもそのはずです。まったく逆なのですから。上の例を続けると、利子率平価の説では、アメリカの高金利は米ドル安を期待させることになります。しかし、現実には、例えば1980年〜1985年の場合がよく示すように、米国の高金利(FRBの金融引締め策による)が米国への資本流入をもたらし、それが米ドル為替に対する需要を拡大してドル高をもたらし、資産価格を引き上げ、さらに(ドル高の期待による)バンドワゴン効果を通じてドル高(dollar appreciation)を亢進させていたのですから。
そろそろ、何が問題か気づくべき時期とは思いますが、やはりケインズが鋭く見抜いたように、「信条」か、さもなければ「権益」が災いしているようです。
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