年末から年始にかけて株価が上がったといって浮かれているテレビ報道の風潮について一言。
短期的ではなく、長期的な変動について言えば、株価が配当に依存することは経済学の初歩です。また配当は会社の利潤の中から支払われることも常識です。この当たり前のことから次のことも明々白々となります。
1 会社の利潤が増えなければ、つまり実体経済が好調にならなければ、株価の持続的上昇は望めません。言い換えれば、現在、安倍政権になって株価がちょっと上昇したからといっても、実体経済が先行き不透明である以上、現在の株価上昇は雰囲気的な、あるいは御祝儀相場的な意味しか持たないということです。
もちろん、私は今後とも株価が上昇しないと断言しているわけではありません。景気がよくなり、会社の利潤が増え、その利潤の中からより多くの配当が支払われるようになれば、株価はもっと上がるかもしれません。
2 しかし、本当は、株価が上がることはよいことなのでしょうか? 私はそのことこそが問題だと考えます。そのことを明らかにするためには、1980年代以降の米国の事例を示すのがよいでしょう。
米国では、1980年代に会社の多数株取得による敵対的買収が横行しました。そしてその時以降、株主価値を重要視する企業統治が増幅され、かつ喧伝されるようになりました。またそれと同時に経営者にストックオプション(自社株購入権)が与えられるようになりました。このストックオプションというのは、一定の価格で自社株を購入する権利を経営者に与えるものです。
ストックオプションを与えられた経営者は何をしたでしょうか? アメリカの経済学者の研究成果を簡単に要約すれば、すばり不正経理と賃金圧縮(リストア)、それに長期的なビジョンを欠いた短期の「レントシーキング」(rentseeking)です。ここでは以上のうち賃金圧縮だけを見ておきましょう。アメリカの企業経営者がリストラによって如何に賃金を圧縮し、自分たちの経営者報酬や利潤を増やし、利潤の中でも株主に支払う配当を増やすことに専念したかは、一連の統計にはっきりと示されています。すなわち、最近の30年間に米国の実質賃金(時間あたり)は低下してきました。労働者は以前と同じ賃金所得を稼ぐために、長時間労働を余儀なくされました。これと対蹠的に配当は増加し、株価は上昇し、その結果、キャピタルゲインも著しく拡大しました。しかも、その挙げ句のITバブル、住宅・金融資産バブルだったのです。その結果、バブル崩壊後、深刻な金融危機が生じたことは言うまでもありません。
人々の99%は、株式保有などではなく、賃金所得で暮らしています。
株価・配当では賃金の着実な上昇をもたらす経済政策を求める、これが多くの人々の利益にかなっていることです。
本ブログも新政権の評価に際して、ずばり賃金や労働時間などの労働条件が改善されるのか否かをしっかり監視してゆきます。
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