それでは、経済の実相はどうなのでしょうか?
ここでは、2つのことに言及してから、安倍のミックスを評価に移る事にします。
1 ゼロ成長でも、雇用(労働需要)は低下する。
現実の経済では、Y=C+I という式を理解しなければなりません。ここで Y は GDP であり、C は消費支出、I は投資支出です。例えばある年の GDP が500兆円の国で消費支出が400兆円、投資が100兆円とします。また景気が悪く、翌年も GDP、消費支出、投資支出が前年と同じとします。このようなゼロ成長でも問題はないではないかという人がいますが、それは大きな誤りです。
というのは、確かに生産量は同じですが、労働生産性が成長し、そのために雇用(労働需要)が減少するからです。
上の例では、粗投資から減価償却費を差し引いた純投資がプラスならば、生産財(投資財)が生産され、資本ストックは増加します。また資本ストックの量が増えるだけでなく、技術水準も成長するでしょう。しかし、そうすると同じ生産量をより効率的に生産できるわけですから、雇用量=労働需要は低下します。小泉政権時の構造改革のように国際競争力をつけるためにといってリストラをすればなおさらです。失業率は上昇し、人々は不安から貯蓄を増やそうとして、消費を削減する可能性が高くなります。それは景気を悪化させます。
2 貨幣賃金の引き下げは消費を減らし、「合成の誤謬」をもたらす
このような時に個別企業にとっては、貨幣賃金を削減し、生産費を引き下げるという選択は非常に合理的な選択となるように考えられます。しかし、それは社会全体では、「合成の誤謬」をもたらします。つまり社会全体の購買力と有効需要(賃金からの消費支出)を縮小させ、ひいては投資需要(したがって生産財の生産)を縮小させます。
ちなみに、現実の経済社会では、人々は経済学者と違って「実質所得」ではなく、名目(貨幣)所得の世界で生きています。たとえ物価水準が低下するデフレーションが生じていても、貨幣賃金の低下は人々に不安を与え、有効需要の低下を導くのです。
結論します。現在、政策にとって一番必要なことは、2%のインフレーション・ターゲンットの政策を行なうことでも、企業の競争力jをつけるために供給側の経済政策を行なうことでもありません。むしろ労働者が安心して消費することができるための、制度的な安定化装置を建設することです。社会的なセーフティ・ネットを張ることも必要ですし、低賃金非正規雇用を拡大しないようにすること、企業が安易に貨幣賃金の低下をしないようにすること、社会保障の整備などが必要です。まさに民主党が主張していた「社会保障の一体改革」を行なうことです。ただし、急いで付け加えておきますが、民主党は「一体改革」を行なったわけではありません。むしろそうせずに、消費税だけ引き上げたのです。それが多くの人々を失望させ、選挙の結果をもたらしたことはあまりにも明らかです。
私も多くの場所で、多くの人々から失望感を聞きました。
しかし、安倍のミックスも、そうなる危険性に満ちています。それは社会を安定化する政策をかかげずに、むしろ反対のことを、すなわち2%のインフレーションをターゲットにすることによる消費強制、いつの日かふたたび(財政危機はともかく)財政構造改革を引き起こしかねない財政支出の拡大、政府をブラック企業化するような施策、競争力の名を借りたリストラと雇用不安の拡大の要素を含んでいるからです。
以上のことを政治家が、そして何より人々が理解しない限り、日本の再生はないでしょう。そして、再生がなければ、政府によって養われて生きるしかない人々が増え、他の人に役立つ生き方をしようとする人々は減ります。私は、人間は社会的動物であり、本来、人に役立ちたいと思っていると考えます。しかし、これまでのような政策を続けている限り、人は自分のことで精一杯になり、逆説的に人の世話にならなければならなくなることが必至になります。このことは歴史から得るべき教訓です。
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